05:がむしゃらに










「はあっ、はあっ、はあ…っ……」
 肩を上下させ、乱れた息の状態で騎乗しているのはエレイン。
 個人訓練用の人形を全部模造刀でなぎ倒した所だった。
 だが、その後自分を顧みずに、人形を整えた後訓練を再開する。
 その姿は戦乙女であると同時に、鬼神をも思わせる。
「はあ…っ。は…あ…っ…」
 それからしばらく経って。
 さすがに限界が来た彼女は馬から降り、ドサリと草の上に倒れこんだ。
 身体が酸素を欲し、苦しいぐらいの呼吸をする。
 どうして、こんなに自分を追い詰めるのか。
 理由は解かり切っている。
 ――不安なのだ。
 訓練に打ちこむなりなんなりしないと自分が押しつぶされそうで恐いのだ。
 だからがむしゃらに訓練に打ちこむ。
「…」
 何時の間にか涙が出てきて、エレインは腕で顔を覆った。
 こらえようとしても、嗚咽になって留めなく溢れる。
「どうかしたのか? エレイン」
 聴き慣れた声がして、涙を拭って腕を解く。顔を向ければ第五分隊所属の友人、ケビンの姿があった。
「…ケビン」
「どうした!」
「…考えてたの。今頃どうしてるんだろうって…」
「任務中の十二分隊か」
 そう――エレインはうなずく。
 クリミア騎士団第十二分隊には二人の共通の友人が所属している。
 現在任務中につき不在で、それがエレインにとって不安の元だった。
「……生きて……帰って来るよね」
「当たり前だ! 奴は俺の永遠の好敵手!! 必ず帰って来る!!」
 どこからそんな根拠が出て来るのやらと思うのだが、今は彼が羨ましいとも感じる。
 そうやって信じられることが。
 自分は不安でしょうがない。
 傍にいないことがこんなに寂しく感じるなんて。
 今まで、親がいなくて寂しかったことはある。
 だが育ててくれた司祭夫婦に教会の子供たちがいるから普段生活する上で寂しさを感じることは無かったし、
 騎士団に入った当初はそんなことを感じることもなかった。
 でも出逢ってしまったから。
 傍にいないだけでも不安になってしまうだけの人に巡り会ってしまったから。
 隣の友人はそんなことを知らない。
 思考が及ばないといった方が正確かもしれないが。
「…ケビン、もう少し休憩したら訓練に付き合って」
「うん? 俺ならいっこうに構わんぞ! 自分の不利な相手との戦い方を磨くのもいいからな」
「ありがとう」
 友人に感謝しつつも、またがむしゃらな訓練をしてしまうのだろうかと思う。
 どうしても不安は拭えない。


 早く帰ってきて。


 あの優しい笑顔を見せて。


 お願いだから。






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