01:二人の想い











 同じなようで、違う。


「あ、オスカー。訓練付き合って」
 クリミアの女騎士、エレインは偶然通りかかった親しい友人に声をかけた。
「ああいいよ。私で良ければ」
 相変わらずの微笑で応える彼。
 糸目ということもあるのだが、考えが読みにくい。
 それに少し彼女はため息をつく。
「今日はオスカーに勝ってみせるわよ」
 訓練場で、エレインは馬に乗って剣を構えながら言った。
「エレイン…」
 苦笑するオスカー。
 自分をライバル視する目はもう一人仲の良い同僚、ケビンと同じだ。
 しかし、オスカーは気付いていない。
 エレインの瞳は、友人やライバルを見る瞳ではないということに。
「それじゃ、始めるかい?」
「もちろん」
 オスカーも馬に乗って、槍を構える。
 お互い馬を走らせて訓練が始まった。剣と、槍の打ち合いが響く。
 エレインは隙あらば懐に飛びこむ気概を持っている。
 それを解かっているオスカーは飛び込ませないように間合いを保ちながら牽制している。
 彼女の馬術、剣術は同期の騎士達の中で抜きん出ている。
 だが、その彼女が唯一敵わないのがオスカーだ。
 剣と槍という相性もあるのだろうが、彼の馬術は抜きん出ている。
 以前馬術を競った時、他に圧倒的な差を出して勝ってしまったのだ。
 その時からケビンがオスカーを「永遠の好敵手」と定めているのだが、これも彼は知らない。
「はっ!」
 オスカーの模造槍が、エレインの模造刀を叩き落した。
 それで訓練は終わった。
「…また負けちゃった…。他の槍騎士には勝てるのに、オスカーにだけは勝てないのよね」
「エレインは強いからね」
「オスカーだって」
 ふふ、とエレインは鳶色の瞳を細めて笑う。
 訓練が終わった後、二人は片付けの間に少し言葉を交わしていた。
「ねえ、オスカー…今度、また教会に来てくれない?」
「え? 非番の日なら構わないけれど」
 その答えにエレインは心底嬉しくなった。
「本当!? 教会の子供達、オスカーのこと気に入ったみたいで。
 また手料理が食べたいって」
「なら腕を振るうよ。楽しみにしててくれ」
「ありがとう」
 エレインは思う。
 オスカーは、優しい。そして、誠実。
 家族を――大切なものを思う気持ちは一緒。
 でも、彼の想いは。
 私の想いは。


 どこか同じなようで、違うのだ。


 恋心の、せいなのか。


 友人としか見ていないせいなのか。






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