バレンタイン・パニック! 後編
しかし。福あれば…災いあり。
「あっ、セレト〜」
ピクン――。
嫌な予感が、した。おそるおそる振り向けば、その予感はほぼ現実に。
「…ララム…」
「はい。これ〜。みんなに作ったの。味は保証するわよ〜」
保証なんか出来ない。セレトは心の中で突っ込みを入れる。
「ララム…味見、した?」
「しなくても大丈夫! だってセシリア様に教えてもらったんだもん」
「…姉上に? 本当なのかい?」
「それでしたら昨日、私見ましたわ。セシリア様、クラリーネに教えてからララムさんに」
「…そう」
と言っても、ララムの料理の威力は嫌と言うほど体験済み。安心できない。
「食べてみてよ」
ずいっと差し出す。
「え、でも僕は…」
「セレト様。せっかくお作りになったそうですから。食べて差し上げたらどうですの?」
ステラが言う。ハッとセレトは気が付く。
(そうか。ステラはララムの料理の威力を知らないんだ)
だが、すがるララムの目とまだ潤んでいるステラの目には、セレトも勝てなかった。
「…わかった。じゃ、もらうよ」
ララムから、チョコを受け取る。
そして、思いっきり一口で全てを中に収めた。
「…うっ…!」
形容できない味が、口の中に広がる。すぐに頭痛が始まり吐き気をもよおし、顔が青ざめていく。
「セ、セレト様!?」
異変に気が付いたステラは、彼の体を支えようとする。
しかしララムは上機嫌で言った。
「あまりの美味しさに感動しているのね。ロイ様やオージェなんか感動のあまり気絶しちゃったのよね。
これからまた他の人にあげてこようっと。じゃ〜ね〜」
ララムは一人感動して去っていく。その姿が見えなくなるとセレトは大きく咳き込んだ。
「大丈夫ですか? セレト様」
「…何とか…」
ようやく収まってきたところで、深呼吸をする。
「…姉上に教えてもらったはずなのに、どうしてララムの料理はああなんだ…?」
「どういうことですの?」
「…ララムの料理は殺人級。レジスタンス時代…食べたことがあって…七日七晩、寝込んだ。
レジスタンスのみんなも…」
「……」
沈黙するしかないステラ。
「料理をするときも家を一件丸ごと焼くし、そのことを思い知ってからは、
ララムに料理は絶対にさせないって言うのが暗黙の了解。料理は僕担当」
「…そうだったのですか…」
ここで、ステラはようやく昨日の呟きの意味を知る。
「僕は少しは耐性が付いているからいいとして…あ!」
「どうなさいました?」
さあっと青ざめたセレトに、ステラは問い掛ける。
「医務室へ行こう! さっきのララムの言葉が正しければ…!」
「あっ、お待ちください!」
全速力で駆け出したセレトをステラは追う。
セレトの心の中には、とんでもない予感があった。
医務室に来ると、サウルが机で何か書き物をしていた。
「失礼します。サウル神父、もしかしてこちらに誰か急病人が運ばれておりますか?」
「おや、セレト殿にステラ」
サウルの口調はちょっとだけ不機嫌のようだった。
「ええ。先ほどロイ様とオージェが」
「やっぱり犠牲者が…」
ガクリとうなだれるセレト。
予感は現実だった。
カーテンで仕切られたベッド二つには傍にいる影が見える。
セレトはそのうちの一つを開けた。
「リリーナ、どう? 様子は」
「あ、セレトさん」
リリーナは声に振り返る。ベッドで寝ているロイはうなされたように時々寝返りを打つ。
「ずっとこうなんです。無理やり食べさせられて…」
「…ララム…」
はあぁぁぁ…とため息をつく。
「セレトさんはどうしてここに?」
「もしかしてと思ってね。予想通りだったよ…。しばらく寝かせていれば大丈夫だと思うけど、
後で薬を持ってくるよ」
「はい、わかりました」
出てカーテンを閉める。そうしてからもう一つのカーテンを開けて中に入った。
「どうも」
「あっ。セレト殿」
オージェの看病をしているウェンディが、彼に気がついた。彼も時々うなされている。
「ララムのチョコ…だね」
「はい…」
自覚してくれと、苦笑するしかない。
(レジスタンス時代からそうだっただろう? 頼むから、ララム)
「しばらくは寝かせて様子を見ておこうか。薬も持ってくるから」
「わかりました」
言って出て、カーテンを閉める。
「さて、これからどうするか…薬を持っていくとして、
あとララムを探して犠牲者をこれ以上出さないようにしないと…」
キィ…ッ。
弱弱しく開く扉の音。
何事かと思って入口を見やると扉にもたれかかった兄にも等しい人、パーシバル。
「将軍? どうなさったのですか?」
尋ねつつも、セレトは普段の彼とは違うと気が付く。
顔は青ざめているし、表情もいつものような無表情の中に苦痛の色がある。
それに彼は体調が悪かろうとも何かにもたれかかるようなことはしていない。
「…セレトか…」
絞り出すような声。まさか…と予感。
「…悪い…が……く、薬を…く…れ……」
ドサッ。
最後の力を振り絞った声の後、パーシバルは倒れた。
「しょ、将軍!?」
慌てて駆け寄るセレト。
「パーシバル様!?」
ステラも慌てて駆け寄る。
「どうしたのですか。…おやおや、将軍も倒れたのですか?」
「ええ。何が原因かは想像つきますけど…」
状況を判断しきるとセレトはすぐ言った。
「ステラは僕の部屋から薬を持ってきて。それと姉上に話を通しておいて。
あと、エキドナさんにこの状況話しておいてくれるかな」
「は、はい」
「それまで将軍は僕が看ているよ」
「わかりましたわ」
ステラが急いで医務室を出て行く。その間にセレト、サウルの二人でベッドにパーシバルを運び込む。
「…絶対犯人、ララムだ…」
ポツリと呟くセレト。
だが、思う。
騎士軍将ですら倒れるチョコレート。…どういう作り方をしたのだろう。
評判を知っているはずなのに、なぜ食べたのだろう。
そしてそれに耐えた自分もまた、たくましくなったなぁと。
「…そういえば神父。なんだか今日不機嫌ですね。どうなさったんですか?」
「いえ。私は別段なにも」
怪しいな、と思う。この神父の性格を考えれば今日は浮かれていておかしくない。
にもかかわらずそうでないのは…。
(誰からももらってないってことか。ドロシーからも…)
と結論を出した。
サウルはまた医務室の机に戻る。
「…セレト…か?」
「将軍。大丈夫では…ないですね」
目を覚ましたパーシバルに苦笑いしながら言うセレト。
顔を手で押さえて、彼は言う。
「…済まない。私がこのザマでは…」
「仕方ありませんよ。ララムの料理は殺人級ですから。でもどうして食べたんです?」
沈黙。そのあとに、パーシバルは答えた。
「…殿下とダグラス将軍の前では…食べるしかなかった…」
「うわっ」
顔が青ざめる。
大軍将ダグラスはララムの義理の父。厳格な将軍も義娘にはめっぽう甘い。
そして現在は吟遊詩人に身をやつしているものの、彼が忠誠を誓ったエルフィンことエトルリア王子ミルディンもいる。
その二人の前ではいかに騎士軍将といえども、食べるしかない。
「…お二人は召し上がられたのですか?」
「ああ。それもあってな…」
何であの二人だけ平気なんだ。エトルリアの不思議だと、ちょっぴり思った。
『……』
沈黙が、しばし場を支配した。
その頃。
「だらしないなぁ、パーシバルの奴も」
お茶をすすりながら言うのはその主君。向かいの椅子に座るのは踊り子の養父。
「全くですな。娘の手料理をもらったと言うのに」
何度もうなずくダグラス。
そこに。
「あっ、エルフィン!」
とことこ走ってくるのはとても幼い女の子。けれど耳が少し尖っている。
竜族の少女ファだった。
「どうしました? ファ」
吟遊詩人エルフィンはにこやかに応える。ファは懸命に両手を上げながら小さな箱を差し出す。
「はい! これ」
「おや。チョコレートですか?」
「うん。イグレーヌがくれたの。でね、「好きなひとにあげなさい」って。
ファ、エルフィン大好きだからあげるの」
屈託のない笑顔。何も知らないからの…夢。
「そうですか。ありがとう」
微笑みながらエルフィンはその箱を受け取った。
ファは大はしゃぎでしばらくその場を駆けていた。
そして、当事者ララムは新たな犠牲者を出そうとしてた。
「そこの海賊〜」
「名前で呼べよ」
そう、ギースである。
不敵な笑みをしながらララムは近づいてくる。
このままでは身の危険! 危うしギース!!
けれど。
「ララム。何してるんだい?」
「エキドナさん!」
西方レジスタンスリーダーのエキドナである。彼女はララムの持っていたチョコレートをひょいと取り上げた。
「何するんですかぁ」
「あんた、これ味見したのかい?」
「しなくても平気ですよ。ちゃんと教えてもらったし」
「……」
ジト目で見るエキドナ。その様子を見て不安になるギース。
「さっき聞いた話によると、ロイ将軍とオージェが倒れたって。あんたのチョコが原因じゃないのかい?」
「え〜!? 感動して気絶したんですよぉ」
「それにしてはうなされてたってさ」
「うう〜」
「あんたは踊りだけで大丈夫だからね。もっと自分の役割を大切にしなよ」
言われてララムもおとなしく引き下がった。とぼとぼ去っていく。
「大丈夫かい?」
「あ? ああ…」
ちょっと状況が飲み込めていないギースにエキドナは言う。
「ララム、料理がとんでもない味でね…。倒れる連中も出るほどなんだよ」
「…マジかよ」
青ざめてくるギースの顔。
「危なかったね、あんた」
「ああ…。ありがとな」
ふう、と一息つく。
「今日はまったくお祭り騒ぎだね。本当に戦争中かい?」
「いいんじゃねえか? 息抜きも」
「…ま、そうだね。そういやあんた、この前の話は考えてくれたかい?」
「船で物資とか運ぶって話だろ? ああ、いいぜ。仲間たちのためにも」
「助かるよ。ありがとう」
交わす言葉の中に、確かな絆を見る、二人だった。
「セレト」
呼びかけながら入ってきたのはエトルリア『魔道軍将』にして姉のセシリア。
「姉上」
「3人の様子はどうなの?」
「パーシバル将軍はすでに気が付かれましたけれど、ロイ将軍とオージェはまだ…」
「…そう…」
至らなさにため息をつく姉に、セレトは言った。
「姉上のせいではありませんよ」
「でも、ララムにもきちんと教えたのに」
「それでどうにかなったら奇跡です。僕もレジスタンス時代、散々教えてもダメでしたから…。
味見役僕でしたから、もう耐性がつきました。…今日も倒れはしませんでした」
顔を軽く伏せて首を横に振る。
「そう…なの?」
「ええ」
わずかな間、沈黙。するとステラが戻ってきた。
「セレト様、お薬をお持ちしましたわ」
「ありがとうステラ。ロイ将軍とオージェのほうにあげて来てくれる?」
「はい。…あの、サウル様」
「? なんでしょうか?」
今だにデスクワークのサウルを見かねたか、ステラは提案した。
「私が急病人の方々を見ておきますので、サウル様はご休憩なさったらいかがですか?」
「…ああ、なんと優しい心の持ち主なのでしょうね、あなたは」
「…サウル様…」
いつもの口上が始まる。
「そんな仕事をあなたに与えるわけにもいきません。ですが、あなたのお心を考えれば、甘えるべきなのでしょうか。
分かりました。私は少し休憩します。後はよろしくお願いします」
と、軽やかに椅子を立ち出て行くサウル。
その光景に3人苦笑してため息をついた。
「サウル神父…分かりやすい…」
「本当に…」
はあ、と頭を抱えるエトルリアの魔道姉弟。
「それよりも、とりあえず…気が付いたらロイとオージェに謝らないと」
「僕はララムを探してきます」
「ステラは急病人が来たら対処して。私、まず将軍に謝らないといけないから」
「分かりました」
三人、それぞれが分かれる。
セシリアはパーシバルの寝ているベッドのカーテンを開け、中に入った。
「…本当に申し訳ありません、将軍」
横たわる彼に深々と頭を下げて謝る。しかしパーシバルはそれを手で制した。
「お前が謝ることではない。…お前に責任は無い」
「しかし…昨日私、しっかり教えたはずなのに…」
「気にするな。私はまだ、平気だ」
渡された薬を含み、彼は言う。
一番チョコによる被害が少ないのは倒れなかったセレト。次が早くに目が覚めたパーシバルである。
酷いのがいまだにうなされているロイとオージェの二人。
「…人間、向き不向きがある。彼女は…不向きだったんだろう」
「…そう、ですよね…ですけど本当に申し訳ありません」
「だから謝るな」
優しい声だった。半身を起こした彼はセシリアにそこの椅子に座るように促し、座ったのを見届けてから言う。
「お前のせいではない。誰もお前を責めはしないだろう。少なくとも私やセレトはそうだ」
「…将軍…」
優しさに、嬉しさがこみ上げる。
本当に優しい人。不器用だけど、本当に。本当に…。
「……」
ギュッと握り締める両手。
「…?」
ふと、パーシバルは気がついた。彼女の手に握られているのは、小さな袋…。
「どうしたんだ? それは」
「え、これですか? …昨日教えながら作っていたのが、余って…」
傍の机に袋を置きながら彼女は続ける。
「お口直しにどうぞ。置いておきますから」
「なら、少しもらおうか」
机に置いた袋に手を伸ばし、それを取る。
袋の口を開けて、中身を取り出す。トリュフタイプのチョコレート。
一口それをほおばる。
「…」
甘さは控えめ。口解けは程よく。それに…ブランデーの味。
酒の入った大人向けの味。
「…セシリア」
「はい」
神妙な声に、真面目に応える。彼は周りに聞こえないように言った。
「お前――これは余ったものじゃないだろう」
「え」
翠の瞳を見開いて彼を見る。
「正直に答えろ。セシリア」
鋭い青の瞳。射抜かれたセシリアは少し視線を泳がせてからうなずいた。
「…ええ。…実は、あなたにと思って。嘘をついてごめんなさい…」
彼の逞しい手が、伸びる。怒られる――思ったセシリアは目を閉じた。
だが、その手は頬に触れて止められた。
「将…軍?」
耳の傍に、彼の顔が近づいて来る。その温かさを感じる。
鼓動が、大きく響く。
やがて彼は、耳元で囁いた。
「…!!」
一瞬にして、顔が朱色の絵の具を塗りたくったように赤くなる。
ただ、すぐに冷静さを取り戻す。
そして誰にも見せない極上の笑顔を大輪のように咲かせた。
城の廊下をトボトボと歩くのはサウル。
あれから女性陣の元へ行ったが皆意中の相手と過ごしていて入る隙間がない。
はあ、とため息一つ。
「どうしたものですかねぇ…。今日はせっかくのバレンタインだというのに…」
「どうしたんです? そんな顔で」
「誰も私にチョコレートをくれないんですよ。今日は愛のバレンタインだというのに」
「ならお祈りぐらいしましょうよ。神父様」
「そうですね。きちんとお祈りを――って…え?」
やっと気がついて振り向く。
自分の護衛をしているドロシーが後ろにいた。
「ドロシー。今までどうしていたんですか?」
「近くの教会でお祈りしていたんです。今日は聖なるバレンタインですから」
「あなたらしいですね。で…ドロシー。私に渡すようなものは…」
「神父様、チョコレートが欲しいならはっきり言ってください」
キッパリと言われるも肩を落とさないのがこの神父。
「ええ。欲しいです」
そうだと言いきり、逆にドロシーが肩を落とす。
はあ、とため息をつきながら彼女はサウルに小さな箱を差し出した。
「はい、神父様。教会で配ってたのをもらってきましたから」
「これはどうも。あなただけですよ、私にくれたのは…」
「日頃の行いの問題でしょう。もっと素行を改めてください」
「何を言うのですか。私は女性の皆さんに神の教えと愛を説いているのですよ」
「女の人に声を掛けてナンパしているようにしか見えないんですが」
ジト目で神父を見るドロシー。
「だから、私だって不安なんですから…」
「? なにか言いましたか? ドロシー」
「…! なんでもありません!」
ふいっとそっぽを向く彼女。本音は赤くしてしまった顔を見られたくないからだった。
「…ウェンディさん?」
夕刻になって、オージェがようやく目を覚ます。
ウェンディは良かったと顔をほころばせた。
「良かった。やっと目が覚めたのね」
「ああ…ごめん、迷惑掛けて」
「私は平気よ。むしろ…傍にいられて、良かった」
「え?」
ドキリとするオージェ。
「そうだわ。これ、薬だって」
「あ、うん」
渡された薬を飲む。苦いが良薬は口に苦し。ララムの裏料理に比べればなんということはない。
「…ウェンディさん」
「なあに?」
「ありがとう。ずっと…看ていてくれたんだろう?」
「いいのよ。オージェのこと心配だったから」
首を緩く横に振るウェンディ。
「でもボールスさんが心配しないかな」
「大丈夫。兄上には「仲間を思いやるのも騎士だろう」って説得したから」
「そっか」
フフ、とお互いに笑いあう。
「オージェ…これ…私が作ったんだけど…食べる?」
と、ウェンディが差し出したのはチョコレート。オージェはチョコとウェンディを交互に見る。
「ウェンディさんが…?」
「イヤなら別にいいけど…」
「イヤじゃないよ。じゃ、いただきます」
一口ほおばるオージェ。ちょっと甘すぎるような気もするが心の中が嬉しさでいっぱいになる。
「美味しいよ。ありがとうウェンディさん」
心からの笑顔。ウェンディも幸せで胸をいっぱいにして笑顔で返した。
そしてやっと――。
「ロイ!」
ロイがようやく目を開けた。
「リリーナ…」
「良かった…ずっと目を覚まさないから心配したのよ」
「ごめん、リリーナ」
「でもロイが悪いのよ。ララムのチョコなんか食べるから」
「いや、あれは無理矢理…ララムさんが…」
しどろもどろになりながらなんとか弁解しようとするロイ。けれどリリーナは聞かない。
「今日のことはロイが悪いんだからね。はい、これ。薬だから」
リリーナから薬を手渡されて、飲み干す。苦さが染み渡るが罰かな、と思ってそれについては言わない。
「…ごめん、リリーナ。心配掛けちゃって…」
「…もう、倒れないでよ」
「うん。わかってる。本当にごめん」
申し訳なく謝るロイ。その悲しそうな瞳にリリーナの怒りも、少し解けた。
「じゃあ、はい。これ」
リリーナはロイにチョコレートを手渡す。
「僕に?」
「それ以外の意味、あるの?」
「…ない」
ふるふると首を振るロイ。
「ロイ、食べて」
「うん」
中身を一口。甘さが広がって、解けていく。リリーナのチョコのほうが百倍は美味しいとロイは思った。
「…ありがとう、ロイ」
「え? ありがとうって…僕の方が言うべきだよ」
「いいの。ありがとう」
くすくす――リリーナは笑っていた。
それぞれのバレンタイン。
騒動もありながら、皆幸せで……。
〜おまけ〜
「ララム…どんな風に作ったらああなるの?」
「えっと、甘さを引きたてるためにお塩入れて、それからスパイス少々に…」
『……』
沈黙するエトルリアの魔道姉弟。
「…姉上、どう教えました…?」
「私は生クリームやブランデーを入れるといいとは教えたわよ…」
「? 調味料は隠し味ですよね? ララムオリジナルスペシャルチョコレートって感じで作ったんですけど」
それがいかんのだ、と心の中で突っ込んだ。
「おや、セシリア、セレト」
「…殿下…」
現れたのは王子である。ジト―っと二人は彼を見る。
「…なんで殿下とダグラス将軍…平気なんですか?」
「? 胃の鍛え方が違うんだろう?」
ずっこける二人。
「…殿下、ダグラス将軍にもお伝え下さい…」
ざわっ、と空気が変化する。まずいと思ったセレトは距離を置く。
「きちんとした味覚を持ってください…とね」
「…わ、わか…った…」
セシリアは笑顔だったが、その笑顔の裏にただならぬオーラを感じた王子はコクコクとうなずいた。
「ララム…あなたもまずは味見をすることから始めましょうね?」
「は、はいっ!」
恐怖にララムはうなずくしかなかった。
<後書き>
長かった…疲れた。
女性陣ほぼ全員にカップリング設定の上でのバレンタインは疲れた…。
どうだったでしょうか。
さりげなくオリジナルも出演して…。
最後のおまけはエレブ最強の女モード発動のギャグと言うことで。
王子ですら恐れる女。
絶対敵にまわすことなかれ。
それでは失礼いたしました☆
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