孤独なる戦い









 ザアァァァァ……。
 雨降るエトルリア王都アクレイア。
 夜の通りを兵士達が固める中、風の刃が駆け抜ける。
 そのすぐ後に一頭の白馬が駆け抜ける。
「…エイルカリバー!!」
 白馬の主が右手を振り上げ、突き出す。
 再び風の刃が兵士達を薙ぎ払う。
 街の外に出る門まではあと少しの距離。このまま何事もなければアクレイアから出られる。
「…セシリア将軍…」
 後ろにしがみついていた女性が声をかけた。
「もう少しのご辛抱を。ギネヴィア姫――」
 エトルリア王国三軍将の一人『魔道軍将』セシリアは、ベルン王妹ギネヴィアを伴い
 アクレイアより脱出するべく馬を走らせていた。
 その理由はただ一つ。
 ――クーデターだ。
 宰相ロアーツと西方三島総督アルカルドがベルンと結託。軍事手段に訴え政権を強奪した。
 その際にギネヴィアも狙われ、彼女をリキア同盟将軍で教え子のロイから預かった身として、
 そしてエトルリアの守護神として屈するものかと彼女を守りながら逃げていた。
 しかるべき準備をしてから、クーデター派に対抗する。
 そのための一時撤退。
 門前まで、来る。
 ここにも結構な数の兵が配置されている。
 一気に魔法で薙ぎ払えば突破できなくはない。
 …しかし、セシリアはためらった。
 その理由はただ一つ。



 門前に、漆黒の騎士が立ちはだかっていた。



「…どいていただきませんか」
 静かに、セシリアは言う。
 しかし漆黒の騎士――『騎士軍将』パーシバルは、首を横に振った。
「ならん。アクレイアを出れば、お前が逆賊となるぞ」
「逆賊はロアーツとアルカルドの方でしょう。それに私はどうせ追われる身。
 ならばエトルリアの軍将として、やるべきことはただ一つ。
 この国と、そこに生きる民のために戦い抜くことです……!!」
 決然とした意思を持つ瞳はけして折れない。
 理解したパーシバルは――剣を抜いた。
「ならば、力づくで止めるのみだな」
「それはこちらとて同じです。力づくでもそこをどいていただきます」
 セシリアも魔道書を構える。
「セシリア将軍…!」
 ギネヴィアが心配そうに覗き込む。
「…しかと掴まっていて下さい…! エイルカリバー!」
 先制とセシリアが魔法を放つ。すぐに馬を走らせて回避したパーシバルは斬りかかろうと駆けて来る。
 接近戦用の護身にセシリアも剣を抜く。
「…くうっ…!」
 ガキンッ!
 剣戟が雨のさなか響く。
「セシリア、どうしても行くつもりか…!」
「私はやらねばならぬことがあります…それまで死ぬわけにはいかないのです!!」
 その直後、セシリアは魔法を放った。
「フィンブル!」
 高位魔法の威力は凄まじく、直撃を受ければひとたまりもない。
 …が、パーシバルは間一髪で回避していた。さすがに完全回避までは出来なかったが直撃は阻止している。
「…パーシバル将軍。あなたこそクーデター派になぜ与するのですか!
 彼らの前に正義など、ありません!」
「だが、国王陛下の御身を思えば――エトルリアを思えばこそ」
「王一人で国は造れません! 国を造るのはそこに生きる民です!!
 その民を思えば、エトルリアという国を思えば――取るべき道は一つのはずです!」
 言葉に、瞑目する。
 しかしパーシバルは。
「……だが、私は……陛下をお守りする」
 改めて剣を構える。
「……わかりました。なら……私も覚悟を決めましょう」
 セシリアは魔道書を構えた。そして――馬を走らせる。
(姫、目を閉じていてください)
 その忠告に疑問を抱くが、うなずく。
 パーシバルは、迎え撃つ。
「――セシリア……!」
「…トロン!!」
 暗い空間を光が満たした。
 高位の雷魔法であるが、その光量をさらに上昇させたのだ。
 昼よりも明るくなり、意表を突かれたパーシバルに兵士達は目を灼かれる。
「しまった…!」
 光が消え、やっと視力が戻ってきたその時には、彼女と王女の姿はもうなかった。
「追跡いたしますか」
「いや…この気候だ。単騎を探すのは難しい。それよりも状況を確認しろ」
「はっ」
 兵士たちはその命令に従う。
 雨で濡れるなか、パーシバルは先ほどの魔法で破壊されたであろう門から外を見る。
(…次は――戦場だな、セシリア…)
 雨は、激しく降る。




「セシリア将軍、大丈夫ですか?」
「はい、なんとか」
 ギネヴィアの心配に、大丈夫と答える。
「これからどうなさるのですか?」
「兵を集め、クーデター派に対抗します。それが私の取るべき道です」
「…」
「大丈夫です。あなたは私がお守りします。ロイとの約束もありますから」
「申し訳…ありません。私のために……」
 思わず涙を流す彼女にセシリアは。
「いいえ。これは私の意思ですから」
 と、笑った。



 これからは熾烈な戦いが待っているだろう。 
 だが、頼れるものは誰もいない。
 孤独なる戦いを強いられる。
 しかしそれが自分のやるべきことなのだと。
 エトルリアの軍将としての使命なのだと。
 それがたとえかつての同僚達に刃を向けるとしても。


 それが、孤独な戦いの代償。


 セシリアはしかと心に刻んだ。










<後書きと言う名の封印突発>

封印でも突発やってしまいました。
一度は書きたかったシーンなので満足なのですが。
しかし私が書くとどうしてパーセシっぽくなるかなー(お前の趣味だろ)
愛だけはふんだんに詰めてあります(笑)


それではありがとうございました。




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