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 フェレ領とサンタルス領の境目にある村――。
「おーい、ウィル! 遊びに行こうぜ!」
 元気良く声をかける村の少年、ダン。
 行こうと誘われた少年ウィルは二つ返事でうなずいた。
「うん、行こう!」
 元気に家を飛び出し、二人が遊び場にしている村近くの森へと駆けて行こうとする。
 すると、二人の目の前に小さな影が現れた。
「あー、二人でまたどこか行くー!」
「げっ、レベッカ!」
 恨めしそうにこちらを見るレベッカに、ダンとウィルはうろたえる。
「また森に行くんでしょ? 私も連れてってよ!」
「だめだだめだ。レベッカに森はまだ早い。ウィルぐらいになったら連れてってやるからさ」
「それって、いつの頃? ウィルは私ぐらいのときにもう森に行ってたよ」
 果敢に言い返すレベッカに、ダンはうなだれた。
「いいじゃんか、ダン。今日は三人で遊ぼうよ。なあ、レベッカ」
「うん! いいでしょ? お兄ちゃん」
 じーっと、妹が許可を求めてくる。
 ウィルもいいだろうと言いたげに見る。
 しかし意固地にダンは首を横に振った。
「だめだ! ウィル、行くぞ!」
「わ、わわっ!」
「あっ、お兄ちゃん! ウィル!」
 ダンが無理矢理ウィルの腕を引っ張って行く。
 抵抗するがダンの力には勝てずズルズルと引っ張られて行く。
 小さくなっていくなかで観念したウィルは言う。
「ごめんなレベッカー! 今後また遊ぼうな!」
 …見えなくなってしまった。
 いつも二人で遊んでいて、自分にはあまり構ってくれない。
 それがレベッカは寂しくて。
「…いいもん」
 意を決した彼女は走り出した。





 森の中の小さな泉で釣りをしたり、木登り。
 「探険」と称し、まだあまり行かせてくれないところへも行ってしまった。
 そんなこんなで時間はあっという間に過ぎてしまい、夕方。
 二人は村に戻ってきた。
「ダン!」
 入口で、父親が大声で自分を呼ぶ。
 どうしたのかと、首を傾げる。
「お前達、レベッカはどうした!?」
「え? レベッカ? あいつ…村にいないのか!?」
「いないから聞いておる! お前たちと一緒に行ったと思ったんじゃが…」
「! ダン! もしかしてレベッカ…森に!」
 ピンと気が付いたウィルが言う。
「は!? まさかあいつ、俺達を追って森に入っちまったのか!?」
「多分…」
「でも、俺達あいつに会わなかったぜ」
「迷子になったのかも…」
 もう、夜になる。
 夜の森は危険だ。
 事の重大さと危険性を、二人はやっと理解する。
「村の者総出で探すぞ! お前達も手伝え!」
「わ、わかったよ!」
 ウィル、ダン、二人は松明を手渡される。
 村総出のレベッカ捜索が始まった。村の男が松明を手に、森の中を捜していく。
 ダンやウィルは親と一緒で森の中を歩く。
「…やっぱり、今日あいつと一緒に遊んでやれば良かった」
 流されやすい自分を、後悔するウィル。
 一緒にいればこんなことにはならなかっただろう。
 もし、レベッカに何かあったら――。
 それだけでも恐ろしくなってくる。
 親と一緒にいる自分が、この暗闇で怖いのだ。
 一人のレベッカは、もっと怖い思いをしているに違いない。
 早く探し出さないといけない。
 ウィルの心は焦っていた。
 一緒だった幼なじみを、失いたくない。
 そんな思いにすら駆られていた。
「…?」
 と、すすり泣くような声…。
「!」
「あ、待つんだウィル!」
 親の制止も振りきり、ウィルは声のする方向へと駆けて行った。





「…お兄ちゃん…ウィル…どこ…?」
 暗闇の中に一人取り残されたレベッカは泣きながら森の中を歩いていた。
 どんどん森の中を進む二人を途中で見失い、元来た道もわからなくなってしまったのだ。
 なにも見えない暗闇――それだけで怖い。
 ましてや誰もその周りにはいない。
「おにいちゃーん! ウィルー!」
 一応、大声で呼びかけてはみるものの、返事があるわけが無く。
 またたまらずに泣き出してしまう。
 やっぱり、森は早かった。
 ウィルの言う通りに今度遊んでもらえば良かった。
「…誰か…ヒック…」
 泣き声が高くなる。
 誰か、見つけて――。
 ガサガサッ。
「!」
 茂みを掻き分ける音に、レベッカは飛びあがるほどびっくりした。
 なにか、来る。
「…あ…あ…」
 得体の知れないものが来るのではないかという恐怖に、目を閉じる。
「レベッカ!」
 聞き慣れた声だった。
 おそるおそる目を開ければ。
 松明を持った、ウィルがいた。
「良かった…。ごめんな、やっぱり今日一緒に遊んでやれば良かった」
「…ううん…私が…わがまま言ったから…ごめんね…」
「でも、本当に良かった。レベッカが無事で。もう…一人にしないから」
「…ウィル…」
 安心したのか、ぶわっと涙があふれ出てきた。
「――ウィルっ!!」
 そしてウィルに抱き付いて、泣いた。
 存分に泣いた。






「…で、それからは…」
「俺達は親父達に大目玉。しばらく家から出してもらえなかったんだ」
「…自業自得かもしれないな、それ」
 話を聞いて苦笑するエリアザール。
 今は行軍中。
 ふと、懐かしくなったウィルがこの話を始めたのだ。
「ま、そうなんだけどな。でもあの時本当に俺、レベッカが心配で…
 あれ? なんなんだろ、この気持ち…」
 もやもやしたものに云々唸るウィル。
 また、エリアザールは苦笑する。
 自分では分かっている感情だからだ。
「ウィルー!」
「エリアザール」
 と、二人の元へ来たのは話に出てきたレベッカと、イーリス。
 噂をすれば影でウィルが、少し慌てる。
「どうしたの? ウィル」
「え、あ、いや…昔の話してたんだ。ほら、覚えてるか?
 森でお前が迷子になった時のこと――」
「え!? ちょ、ちょっとウィル! そんな恥ずかしいこと…」
 途端に顔を真っ赤にさせるレベッカ。
「あ、でももうエリアザールに全部話しちった」
「ええー!? エ、エリアザールさん! わ、忘れて下さいっ!!」
「どうしてさ。話してもいいことだろ?」
「だ、だめーっ!」
 じたばたするレベッカの慌てように、イーリスも苦笑する。
「どうしたのさ、イーリス」
「いいえ。あなた達の所に来る前に、レベッカが昔話してくれたのよ。
 森に迷いこんでしまったって話」
「同じ話をしてたのか」
「森の中だから、懐かしくなったみたい」
 なるほど。
 ウィルも森の中の行軍で懐かしくなってこの話をしてくれたのだ。
 同じ心境になったのだろう。
「で…話してくれたんだけど、その後が」
「その後?」
「…淡くて甘い、記憶だって」
 遠回しな言い方だが、なるほど。
 エリアザールは納得してうなずく。
「とりあえずレベッカ、これ配っちゃいましょうよ」
「あ、はい!」
 やっと本来の目的を思い出したようで、
 レベッカはハッとなって持ってきたものを二人に渡した。
 二人の昼食である。
「はい。ウィルの分」
「お、サンキュー。…なあ、レベッカ」
「? なに?」
「昼、一緒に食うか?」
 屈託のない笑顔。
 直視して、かあぁぁっとレベッカの顔が朱色に染まる。
「え、え、う、うん…」
 そして戸惑ったが、レベッカはウィルの隣に座った。
 レベッカお手製の料理を本当に美味しそうに食べるウィルを見ながら、レベッカは思う。
(ウィル。もう…一人にしないでね。
 私…あの時から、ずっとウィルが好きだったんだよ)
 ちょっと笑って、レベッカも自分の作った料理を食べることにした。









<後書きという名の愛しのウィルレベ>

 初ウィルレベ〜。
 なぜか軍師たちも出張ってるけど。

 愛しのウィルレベ。
 ネタは45の質問から。二人の幼い頃。
 兄やウィルがいろんな所に行くけれど自分は行かせてもらえないことから。
 迷子になって、見つけてもらって、泣きつく。
 ありがちですがいいですね。
 幼なじみだからこそだね!(待て)

 それではありがとうございました〜。





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