友情のエイプリルフール





「オスカーーーー!!!」
 いつもの騒々しい声が響きわたる。
 またなんだろうかと思いながら、オスカーは振り向いて声の主の方へと声をかける。
「なんだい、ケビン」
「これを受け取れ!」
 ズイっと差し出すものを受け取るオスカーなのだが、見て固まった。
「……これは……冗談だよね?」
 はは、と笑いが引きつる。
 なぜならば、ケビンが渡したものは手紙――というか、果たし状である。
 しかも文面がかなり恨みがましいものを綴っている。さすがにこれはないだろうと思って固まってしまったのだ。
 普段から「永遠の好敵手」と呼び色々対抗心を燃やしているとはいえど。
 冷静になって考えて、今日が何の日かを思い出せばこれが冗談と確信できた。
「……エイプリルフールか。……さすがに驚いたな」
「ならば良し! お前にひと泡吹かせてやろうと思ってな、フェール伯協力の元作った果たし状だ!」
 満足そうなケビンとは対照的に、オスカーは何をやっているんだ、と思う。
 フェール伯爵ユリシーズ。
 クリミア一の策謀家である彼はお茶目というか、いい性格をしているためときどき周りの者をからかうことがある。
 今回ケビンの要請に応えて作り上げた果たし状に良くやるものだ、と思いため息ができる。
「本当はもう一案あったのだが、そっちはさすがに笑えそうなかったため没にしたのだが…」
「…一体何を考えたんだフェール伯は…」
 さすがにうすら寒いため聞く勇気がない。
 気を取り直して、ちょっと考えてからオスカーは口にする。
「…ケビン」
「うん?」
 改めて名を呼ばれてどうしたのだと首をかしげる。
 するとオスカーは笑って――言った。

「二人で旅に出ようか?」

「は?」
 目が点になった。笑うオスカーは何を考えているのかその細い目から読みづらい。
 一方その彼はケビンの固まった姿に――声をあげた。
「あはははっ。冗談だよ」
「な、貴様!」
「さっきのお返しさ」
「く、くそう…!」
 してやられた。ケビンはがっくりと肩を落とすがそんな彼にオスカーは再び言う。
「こんな気軽な嘘、君じゃないと無理だよ」
「なに?」
「つまりは永遠の好敵手としての、友情の証ということだよ」
「本当なのか!?」
 先ほどの冗談もあるから構えるケビンだが、オスカーはもちろん、とうなずく。
「不安がるから家族に気軽な嘘はつけないよ。…心配掛けないための嘘はついたことがあるけどね。
 ただ、こういうたわいもないものは友人にしか無理だろう?」
 彼の言うことは本当である。
 長兄として弟達に不安を与えてはいけないから、煽るような嘘はつけなかった。
 逆に心配をかけないようにとの思いで嘘をついたことはある。
 しかしこんなたわいもない――気軽なやり取りは親しい友人でないと無理だ。
 つまりは、オスカーにとってケビンはそういう存在だと言うこと。
「だから、気軽な嘘ってのは私からの友情の証なのさ」
「そ、そうか…! ならば永遠の好敵手として俺はそれに応えねばならんな!」
 どう応えるのか不明だが、この真っ直ぐさこそがオスカーが最も好んでいる部分だ。
 裏表のない、実直がそのまま人間になったかのような男ケビンの。
「ありがとう。それじゃ私は失礼するよ」
「次はお前をもっと驚かせてやるぞ!」
 分かった、と手を挙げて応えながらオスカーは仕事に戻る。
 気軽な嘘は、友情の証。
 二人の変わらぬ絆の証――。



 終わり




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