079:死神
「あいつは死神だ」
一度戦場に出ればその刃はどんな敵をも命を奪ってきた。
神速をもって戦場を駆け、敵に絶対なるもの「死」を与える男。
その男はまた、誇り高く決して意にそぐわぬ依頼を受けない。
金色の髪と、血と炎を掛け合わせた真紅の瞳を持つ男。
その男はこう呼ばれた。
――神速の死神獅子「レグルス」と。
彼にまつわる噂は絶えない。
その並外れた強さから、人間ではないとか。
魔と契約した者であるなど。
無責任な噂が絶えない。
しかし本人は、そんな噂など意に介していない様子だ。
何かの目的があるようで旅をしている彼は、各地でその姿を見かける。
氷の衣と、炎の瞳。
相反するものが彼の特徴であるがその通りでもある。
彼にまつわる噂にこんなものがある。
「奴は、数十年前から歳をとっていない」
なぜそんな噂が出てきたのかは不明だが、数十年前からそのような噂を耳にし、
それらしい姿を見ることからだろうか。
二十代後半ぐらいの姿で常に現れるからか。
謎の多い者だが、決して誰にも過去は語らない。
常に独り。孤高の魔術剣士。
その戦いぶりは、時には哀しさをうかがわせる。
理解する者がおらず、死を急ぐかのような戦い。
だが、死は彼には来ない。
他者には死を与えるものの、自分にはもたらさない。
どのような戦場でも、苛酷な環境でも、生きて帰る。
ただ、たった一つだけ彼が他者に語った言葉がある。
「なぜ、どんな状況でも生きて帰れる?」との質問に答えたものだ。
「私の時間が、止まっているからだ」
その言葉を理解する人間は少ない。
しかし分かることはある。
死神は自分の刻が動くのを望んでいると。
そうすれば死を迎えられるだろうと、死神は思っている。
その時こそ、死神の鎌が自分に振り下ろされるだろうと。
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