077:太陽と月
この世には、二種類の恋が存在します。
ひとつは、太陽のように明るく、燃え上がって表に出る恋。
もうひとつは、月のように穏やかでゆっくりと裏側で育む恋。
――太陽の恋が一般にはよく知られますが、月の恋だってあるのですよ。
だって、ほとんどの恋は秘めたる月の恋から始まったのですから。
さて、あるひとつの、月の恋を紹介しましょう。
エトルリア王国のあるところに、一人の青年がいました。
青年は、他人を愛する――愛情という感情をほとんど知らない青年でした。
幼い頃に父も母も亡くしてしまったので、両親から愛された記憶があまりなかったためです。
そのため青年は他の感情もほとんどありませんでした。
瞳に感情という感情はなく、言葉もほとんど出さず、でも容姿は美しく。
まるで生き人形――モルフです。
本当に、生きてはいるけれど人形のような人間だったのです。
青年は、才能がありました。
戦う術の才能を父親から受け継いでいたのです。
士官学校に入った青年は瞬く間に開花させて賞賛と同時に嫉妬を受けました。
だから、青年には友人もいなかったのです。
青年は、ずっと独りでした。
けれど、青年はあるとき、学校内で一人の少女に出逢いました。
少女は女でありながら軍人を目指しているのでした。
その少女に青年は、一目で何かを感じました。
自分と似たところがあったのか、青年は少女と少し話をします。
青年は、一期一会の考えでした。
けれど少女は、それから青年の所に来るようになったのです。
初めは拒絶していた青年も少女の優しさに、強さに、何かを感じます。
――青年にとって初めての感情でした。
青年は拒むのをやめました。
少女の存在が、青年には何か今までとは違うものを与えてくれると、わかったからです。
二人は瞬く間に仲良くなりました。
時を経て、いつしか気付きました。
それは初めての『愛情』。
彼女に恋をする自分に気付いたのです。
そのころにはもう青年は、人形ではなく人間になっていました。
笑う、悲しむ、怒る…。
すべての感情を知ったようで、表情をあまり変えることはなかったのですが、
確かに表すことができるようになったのです。
そうすれば、青年は願うのです。
――この恋が、月の恋のままで終わらないように。
彼女も、少女から女性へと成長していく中で青年――男性への愛情に気付きます。
見せてくれる不器用な優しさが、また自分には無い強さが素晴らしく思えて、
彼のすべてが愛しくなっていくのでした。
ずっと傍にいたいと思うようになり、支えたいと思うようになります。
そうして、願うのです。
いつしか、太陽のように表に出せる恋になればいいと。
叶わずに終わらないようにと。
――二人は昼も夜も、願うのです。
太陽と、月に。
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