018:混血
混血なんて、今更珍しいことではないと、思っていた。
リキアの貴族として生まれた僕だけれど、母はエトルリアの貴族。
はとこのリリーナだって、母親はイリア生まれ。
血が混じり合うことで一番有名なのはサカのブルガル。
ベルン人とサカの民の混血率がすごく高いと聞いている。
人と人が結びつくから、混血なんて今更。
だと、思っていたのだけれど。
人間と竜族が共に暮らすナバタの里で、僕達は知ってしまった。
小さい頃からの親友であった、ロイ。
彼の母上は幼い頃に亡くなってしまったと聞いている。
イリア出身の方で、踊り子だったらしいと。
元々フェレはベルン国境に接する場所だからベルン人との混血が高い。
フェレ侯爵家にもベルン人の血が、入っているそうだ。
だから踊り子には驚いたけれど、珍しくもないなと初めは思っていたのだけれど。
まさか、竜族との混血とは。
ロイ自身も驚いていた。
まさかと本当に思う。自分の母親が――竜だったなんて。
もし僕がそうだったらロイと同じ反応をする。
リリーナも…セシリア姉様も、心底驚いていた。
でもそれだと納得が行く。時折見せた人間を超える力。
それにいつもの「予感」。
ロイは悪い予感が必ず当たった。自分に振りかかるような予感だと、特に。
姉様も言っていた。
「ロイにはもしかしたら予知能力のようなものがあるのかもしれないわね。
自分や、周りに対する危険をあらかじめ察知するのかもしれない」
ロイはずっと悩んでいた。
自分の中にある「力」に。
他の人たちとは明らかに異質なものに。
小さい頃から知っている僕とリリーナはそう疑問は感じなかったけれど、
どこか、不思議だと…いや、気味悪く思っていたのかもしれない。
人は、異質なものを恐れるから。
「人の本質を、見なさい。外見や、持っている力ではなく、
性格や、何に対し怒りや、哀しみを持つのか、それを見てその人を知りなさい」
姉様が教えてくれた言葉。
その者の本質を見るべきだと教えてくれた。
初めは人を外見だけで判断するなと、言う風に思っていた。
でも、今は痛いほどその意味がよくわかる。
自分たちとは異質の存在であることを知ってしまって、深く悩んでいる幼なじみ。
しかし、僕たちの目の前にいるのは幼なじみのロイに違いない。
何があっても、何であっても、ロイはロイだ。
「ラジエル」
と、ロイから呼びかけられて僕は驚いた。
「ロイ」
「さあ、行こう」
「…大丈夫なのかい?」
「さっきも、リリーナから言われた。でも、僕は大丈夫。今は前に進まないと」
「…そうだね。行こう」
僕と、ロイは一緒に歩き出す。
強いなと思う。
半分、人ならぬ身でありながらも前に進めるロイが。
そんなロイを、僕は助けたい。
人と竜の混血としてではなく、大切な幼なじみとして。
それを、きっとロイも望んでいるから。
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